道徳は,4つ押さえるだけで本質が見える


今日は「特別の教科 道徳」についてお伝えします。
今回は
・内容項目はムズカしくない。
・4つの例を押さえる。
・道徳は〇〇だ!
このトピックでお話しします。

昨年から教科化された道徳科。
皆さん、どんな印象をもっていますか?
「難しいなあ。」「教科になって結局何が変わったの?」
「仕事が増えた。」「所見はめんどくさい。」
いろいろとあることでしょう。

今回は,授業づくりの話ではなく,指導要領の内容をかみ砕いて解説していきます。
「え!? 指導要領か。」とページを閉じようとした,そこのあなた!
今回は4つに例を絞っていますので,かなり理解しやすいものとなっています。
どうぞ流し読みでもいいので,読んでいってください。
きっと,次回からの道徳の授業で,何かが変わると思います。

では本題です。

内容項目はムズカしくない。
いきなり質問です。
「内容項目」と「道徳的価値」という言葉があります。
この2つは,どう違うでしょうか?


実は2つの言葉には大きな違いがあります。
まずは「道徳的価値」について。
これは,根性,あきらめない気持ち,優しい心などといった言葉が入ります。
これらの言葉は,実は指導要領には書かれていません。
「道徳的価値」は,シンプルに言うと,
人生をかけて追究するもの
なのです。

対して,「内容項目」はどうでしょうか。
これは,「節度,節制」や「正直,誠実」「親切,思いやり」などのことを言います。
なんだか道徳の授業では聞き慣れた言葉ですね。
つまり,
「内容項目」は,道徳の授業で追究するものなのです。
「内容項目」は,「道徳的価値」を系統立てて授業をしやすいように並べたものなのです。

「じゃあ,『価値項目』って何?」と質問が聞こえてきました。
答えは,「そんな言葉はありません。」
価値項目なんて言っている人は,
内容項目と道徳的価値の違いを気にせずに,
ざっくりと理解し,
かっこつけてそれらしい言葉を使っている人なのです。
注意して聞いてみてください。
道徳科を少しでも勉強している人は,価値項目なんて言葉は使いません。
価値項目という言葉を使う人ほど,「よく分からないけど」なんて前置きをして話しているのです。

続いて,
4つの例を押さえる。
この部分が今日一番皆さんに伝えたかったことです。

内容項目の言葉は,先ほどもお伝えした通り,系統立てて並べているものなので,
とにかく類似しています。
見やすく並べているはずなのに,逆に理解しにくくなっている・・・・。本末転倒のような気がしますが。
そこで,その似ている内容項目の言葉を理解することで,教材研究が本質を捉えたものとなり,
ポイントを絞って授業を行えるようになります。
ポイントを絞って授業を行えると,子どもの多面的・多角的な発想から出る多様な意見も深い懐で受け止めつつ,
ブレない授業となります。
内容項目は20以上ありますが,今日は4つに絞って解説をします。
 1 正直,誠実(A)
 2 希望と勇気,努力と強い意志(A)
 3 親切,思いやり(B)
 4 友情,信頼(B)
この4つを解説していきます。
それではいきましょう。

1つ目「A 主として自分自身に関すること」の視点から
『正直,誠実』についてです。
正直,誠実それぞれどのような意味でしょうか。
それぞれ広辞苑では次のような意味です。
正直・・・心が正しく素直なこと
誠実・・・真面目で真心がこもっていること
うーん,言葉の意味はこのようになっていますが,
この言葉をどのように授業で使えばいいのでしょうか。

結論を言います。順番が大切なのです。
正直は,行動→言葉。誠実は,言葉→行動なのです。
正直とは何でしょうか。「正直に言いましょう。」等と使いますね。
これは,自分の行った行動を,嘘偽りなく言葉で表現しましょう,という意味です。
行動→言葉ですね。
もっと具体的に言うと,Aくんが花瓶を割ってしまい,先生に見つかりました。
先生は「何があったか正直に言ってごらん。」と言います。するとAくんは
「遊んでいて,手が当たって花瓶を割ってしまいました。ごめんなさい。」と言いました。
これは,「花瓶を割ってしまった」(行動)Aくんは,自分の行いを謝る(言葉)という流れです。
行動→言葉の流れのことを,「正直」と呼ぶのです。

対して「誠実」はどうでしょうか。
正直と似ていますが,「正直に言いましょう。」のように「誠実に言いましょう。」とは言いませんよね。
これは,先に言葉があるからなのです。
例えば,約束を守る人。この人は誠実と呼べるでしょう。
これは,「約束をする」(言葉)行為の後に,「守る」(行動)があるという流れです。
発した言葉やルールに基づいて行動をすることを,誠実と呼ぶのです。
ここで,話を戻すと,Aの内容項目には「正直,誠実」とあります。
これは,順番が大切です。「誠実,正直」になっていないことがポイントです。

復習しましょう。先にくる正直は,行動が先にきました。
「正直」が先にくるということは,指導要領では,
「まず行動することが大切。」と言っているのです。
まずは行動をして,言葉で後から補足する。
言葉を先に言って行動するよりも,まずは先にいいと思うことをやってみましょう。
動いてみて,初めて分かることがあるんです。
ここまでは拡大解釈かもしれませんが,実際に教材研究をする際には,
「この教材は,正直に重きを置いているのか,背実に重きを置いているのか。」
を軸として考えましょう。
1つの教材で両方を大切に扱っているものはほとんどありません。
たいていは正直か誠実,どちらかの色が濃くなっています。
そして,正直なら正直,誠実なら誠実,重点がどちらか分かったら,
その行動をしている人物に焦点を当てて,発問を作ります。
これ以降は授業づくりの話になるので,またの機会にします。

2つ目は同じく「A 主として自分自身に関すること」の視点から,
『希望と勇気,努力と強い意志』です。
これは,それぞれ前半と後半でペアを作って理解しましょう。
つまり,
「希望と勇気」で1セット,「努力と強い意志」で1セットです。

まずは前半,「希望と勇気」について解説します。
人は,希望をもつ時というのは,どんな時でしょうか。
例えばプロ野球選手になりたい,いつまでも元気に生きたいなどが,希望という言葉にセットとして使われます。
では,勇気をもつ時というのはどんな時でしょうか。
・勇気を出して好きな人に声をかける。
・勇気を出して試験に挑戦する。
これらのことから勇気とは,何かしらの目標に向かう強い気持ちと言えます。
つまり,勇気はゴールがあるから発揮できるのです。そのゴール地点や付近のことを,希望と呼ぶのです。
希望があるから勇気がでる。
希望のない勇気は,ただなりふりかまわず勢いで行動しているだけです。
それは,道徳的価値が高い行動とは言えません。

続いて,「努力と強い意志」です。
これは,「希望と勇気」によく似ています。
努力をしている時はたいてい,目標に向かって頑張っていることのことをさすはずです。
時々,このような言葉を聞きます。
「あの人は努力家だ。」
仮にその人が努力家だったとしましょう。
それは,いつの時点でそう言えるのでしょうか。
1回の頑張り? 1週間続けたら努力家?
いやいや,1年は最低続けないと,努力したとは言えないでしょ。
努力の内容によりますので,一概には言えませんが,共通しているのは,
『短い期間だけ頑張っても,それは「努力」をしているとは言えない。』
ということではないでしょうか。

つまり、努力とは長い期間頑張ることを指します。
では,その長い期間,気持ちが折れることなく,頑張り続けることができたのはなぜでしょうか。
きっと,自分自身が「目標を絶対に達成するぞ。」と思っていたから,と言えるでしょう。
つまり,努力とは,強い意志によって支えられるものなのです。

「希望と勇気」,「努力と強い意志」はそれぞれ1セットとお話ししました。
実際の教材研究の場面では,
①「希望と勇気」か「努力と強い意志」か,どちらが重点の教材か見極める。
②仮に「希望と勇気」だとしたら,『希望』はどの人のどの心か,『勇気』はどの人のどの心か,を考える。
③『希望』『勇気』それぞれについて発問を考える。
という流れに沿って行うと,本質を捉えた授業に向かいます。

続いて3つ目です。
「B 主として人との関わりに関すること」から「親切,思いやり」について解説します。
この2つは,特によく似ていますね。違いは?と聞かれて,即答できる人は少ないでしょう。
しかし,類似した言葉の違いこそに意味があるのです。
ズバリ,「親切」は行為を表す,「思いやり」は心を表すのです。
『親切な行為』とは言いますが,「思いやりの行為」とは言いませんよね。
『思いやりのある行動』とは言いますが,「親切のある行動」とは言いませんよね。
つまり,親切は「思いやり+行動」であるのに対し,思いやりは心そのものを表すのです。
どちらも相手を思うことには変わりないですが,
授業で扱う教材は,「親切」なのか「思いやり」なのかを判断することが大切です。

実際の教材研究の場面では,
①この教材は「親切」「思いやり」どちらに重きを置いているのかを考える。
②例えば「親切」なら,なぜその行動をしたのか,と行為を生んだ心を考えることができるような発問を考える。
という流れで行うと,本質に向かった授業になっていきます。

長くなってきました。休憩しながら読んでくださいね。
続いて最後の4つ目です。
『友情,信頼』です。同じくBの視点ですね。
これも,順番に意味があるのです。
友情が先にありますね。
広辞苑で意味を調べると,
「友情」・・・友達の間の情愛
「信頼」・・・信じて頼りにすること
とあります。

例えば,道を歩いている人に,いきなり住所などの個人情報を伝えることはできますか?
きっとほとんどの人が「できない」と答えるでしょう。
「何で教えないといけないの?」
「どこにばらされるか分からない。」
「そもそも,だれ?」
それらは,「信頼」という基礎が,人間関係の中にできていないからです。
つまり,友情がないと,信頼もできないのです。

では「友情」とは何でしょう。
広辞苑の意味の通り,
「友達との情愛」略して「友情」なのです。
では,情愛とはなんでしょうか。
再び広辞苑で調べると,
情愛・・・情け,いつくしみ,愛情
とあります。
友達が困っているから助る
友達の気持ちに共感する
友達に対して好感をもつ
これらのことを数十回,数百回くり返して,「友情」と呼べる関係ができあがるのです。
その過程の中では,自己開示が必ず必要です。
自分のことをさらけ出したり,本音を言い合ったりして,関係が深まっていくのです。
そうしてできた「友情」があるから,初めて次の「信頼」が成り立つのです。

教材研究の場面では,
①「友情」か「信頼」か,どちらに重きを置いているのか考える。
②例えば「友情」なら,2人はなぜ友達と呼べるのか,本当の友達と呼べるのか,などという発問を考える。
この流れで,本質に向かう授業ができるのです。

以上,4つの内容項目を解説しました。
 1 正直,誠実(A)
 2 希望と勇気,努力と強い意志(A)
 3 親切,思いやり(B)
 4 友情,信頼(B)
それぞれ,1度読むだけでなく,数回読むことで理解が深まります。
繰り返し読んで,なんとなくでいいので本質をつかんでください。
きっと教材研究が,授業が,子どもの発言が,変わります。

道徳は〇〇だ!
 ここまで読んでくださった方は,次のような気持ちでしょう。
「そんなに意味を深く考えないといけないの。」
「言葉を理解することに意味はあるのか。」
答えを言うと,あります。
そして,その境地に達しているということは,もう道徳を理解し始めている証拠です。

私は,「道徳は哲学だ」と声を大にして言います。
「生きるとは?」
「死とは?」
「友情とは?」
などといった問いに対して,自分なりの正解を導き出すことが,哲学であり,
これからの時代に求められる道徳科の授業の本質なのです。

広辞苑では
哲学・・・経験などから築き上げた人生観・世界観。また、全体を貫く基本的な考え方・思想。
とあります。

哲学に数学のような明確な正解はありません。
「納得解」を探していくことが,ある意味正解と言えます。

そして,大人でも難しいと感じる哲学を,
子どもたちは,集団で議論することで,
納得解を導き出していくのです。

「道徳は難しい」
「分かりやすい授業パターンがない」と言われる理由は,
この部分にあるからだと,私は思います。

授業をする先生や学級によって,
同じ教材を使って同じように授業をしても,
まとめの言葉は違います。
でも,それでいいのです。
いえ,それがいいのです。

ただし,今回紹介したような4つの内容項目のように,
本質を押さえていれば,それにまとめが自然と向かっていきます。
「思っていたまとめと全然違った。」
よく聞く相談です。
しかし,全然違った時も,その内容によります。
A「内容項目の本質を押さえた上で,違う言葉になった。」
 これは,多面的・多角的に考えることができた子どもの姿と捉えることができます。
B「内容項目の話は全くです,違う道筋のまま授業が終わってしまった。」
 これは,本質から離れてしまっているので,展開の段階で本質に向かう問い返しが必要です。

今回は内容項目の話ですので,授業づくりについては,またの機会にお話しします。

道徳は哲学。
言葉にすることは難しいですが,それを
「なんだかうまく言えないけど,こういう感じ」という境地で子どもが発言し出すと,
道徳科で学びを得始めている証拠です。
大人でも言葉にすることは難しいのです。
語彙(ごい)の少ない子ども達はなおさらそうです。
しかし,哲学の観点で言えば,総じて子ども達の方が柔軟な頭をもっているので,
大人よりも純粋な疑問や気付きを見つけることでしょう。
そして,その気付きを受け止めてあげてください。
決して「言葉にできないのはだめです。」「分かっているなら言えるでしょう。」などと,追いこんではいけないのです。

以上,
今回は「道徳の内容項目は,4つ押さえるだけで本質が見える」という題でお話ししました。
「道徳って難しいけど楽しい!」
そう思ってもらえると,嬉しいです。


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